<金曜は本の紹介>
この本は、将棋のプロ棋士で八段の先崎学さんが、雑誌「週刊文春」に連載しているコラムの2003年11月20日号~2007年5月17日から60篇を抜粋して1冊の本にしたものです。
将棋の世界に興味を持っている方にとっては、その世界などがよく分かり、とても面白い内容となっています。
先崎学さんは最近まで「将棋世界」という月刊誌にも連載をしていて、なかなか面白い内容でした。かなり文才があると思います。
この本は、将棋のルールを知らない人でも楽しく読める内容となっていますので、とてもお勧めですよ。
以下は、その中で特に面白かった内容等です。
・今夜の勘定は誰が払うのじゃ。将棋界には、先輩後輩の差があきらかな時には先輩が払うという美徳がある。しかし、この日のばあいは、一番先輩は中田七段だが他の3人とそれほど離れているわけではない。それに佐藤君は棋聖である。タイトルホルダーは将棋界の頂点である。ちょっと中田さんといえでも勘定を持つことはできない。ならばその佐藤棋聖が払えばいいのであるが、彼はメンバーの中で唯一今日負けた人間である。対局に勝った棋士が払うというのも将棋界の慣習のうちのひとつである。だったら勝った3人で払えばいいという理屈もある。しかし、そのばあいは、4人で飲んでいるにもかかわらず3人で割り勘という妙なことになる。それは佐藤君もいい気がしないであろう。それに佐藤、郷田、先崎の3人はほぼ同い年で、まあ同期みたいなものである。あまり貸し借りは作りたくないという間柄である。棋聖だから払うといったって、その前の棋聖は郷田だったのである。ようするに、将棋界での格と先輩後輩の関係と当日の成績が、こんがらがってわけがわからない状態なのである。もちろん焼き鳥屋であるからしれた額であるので、誰が払ってもまあいいのだが、つまらないことに気を遣うのは世の常である。とはいえ「いや私が」「いやいやまあまあ」などという形式的な会話はまったくなかった。数秒の沈黙の後、郷田が「じゃあ割り勘で」といって、皆ホッとしてさっさと勘定を済ませたのだった。
・さてこの銀河戦、対局者にとって嬉しくないことがひとつだけある。会館内のテレビで中継映像が観られるのだ。対局の収録がおこなわれるのは平日の昼間だから、勉強や雑用などで他の棋士がいっぱいいる。それらの棋士が控室にかたまり現在進行形の将棋を観ることになる。そしてアアだコウだという。だいたいロクなことはいわない。仲間内だけに遠慮はないのはもちろんだが、好手を観てもたいがいはウンともスンともいわない。その代わり悪手や筋の悪い手がでたらもう大変である。「信じられない」「ヘボすぎる」「ひどいね、こりゃ」「そこに指がいくかねえ」こういうボキャブラリーが飛びかう。もっとひどい、とても活字にできないことばも頻出する。
・中央線で事故が多いお陰で、東京都下、中央線沿線に住んでいる棋士は、不可抗力の遅刻が多くなる。対局は朝の10時からで、遅刻するとその時間の3倍を持ち時間から引くことになっている。それで持ち時間がなくなるとアウト、不戦敗である。持ち時間3時間の対局だと1時間の遅刻でアウトとなる。なんだ、それじゃ朝の人身事故一発でエライことに・・・・・と思われるかもしれないが、そこはきちんと規定があって、電車事故の時は3倍ではなくそのままの時間を引くだけで済む。3時間以上電車が遅れることはないから、普段の対局では事故による不戦敗はない。
・私はひとつの真理を見いだしたのだった。すなわち、ゆるめてくれたと分かっていてもプロに勝つと嬉しいのである。お世辞と分かっていても異性にほめられると嬉しいのと一緒だ。ああ私は今まで将棋で上手を持ってどれだけの人間をこの喜びを与えずに奈落の底に落としたであろうか。何千人、いやのべにすれば何万人であろう。私は海よりも深く反省し、山よりも高い意志を持って今後の将棋の指導対局にのぞむ決心をしたのだった。
・そのあたりを医者に話すと「そうですか、たしかに痛風かもしれませんねえ」とのこと。さっそく血液検査をすることになった。結果が出るまでの間、私はうなだれてソファに座っていた。これでビールともお別れかあ。夏が辛いよなあ。モツなんて論外。寿司屋ではかっぱ巻きを食べなきゃいかんのか。それに、ついこないだ知合の人が痛風になって、ビールが飲めずに焼酎をチビチビ飲んでいるのをからかって大笑いしたばかりなのだ。人を笑わば穴二つ。今度その人に会ったら何をいわれるか分からないな、と思った。結果を聴きに部屋に入るや、私は数値の書いてある紙を覗き込んでUA(尿酸値)のところを見た。刑の宣告を受ける前に自分の目で確かめたかったのだ。数字を見て、私はへなへなとなった。平常値だった。「これは痛風じゃないですね」どう考えても詰みだと思っていた自分の玉が詰まなかった時の安堵感に似た喜びが全身をつつむ。
・秒読みとトイレで忘れられないはなしがある。昔、まだ私が奨励会員のころ、ある棋士(S八段。当時は若手のバリバリだった。)が1分将棋でトイレに立ったのである。時間がないばかりか、盤上の形勢も圧倒的に悪いという状況だった。相手の棋士は面食らったようで、すぐに次の手を指した。ところが、その手が大悪手だったのである。優勢なのだから、時間切れで勝とうなどと思わずに堂々と勝ちにいけばよかったのだ。驚くのはここからである。トイレに立ったのは、計算ずくの行動だったというのだ。相手の性格まで考えてわざと間違えそうな局面で、席を立ったのだという。プロの世界というのはこわいところだと思った。余談だが、将棋会館4階のトイレは、フロアの真ん中にある。水回りの点からは考えられない配置で、コストも高くつくといわれたらしいのだが、それよりも公平性を重んじたのである。たしかに真ん中にあれば、どの部屋からでも1分以内に戻ることが可能である。
<目次>
こんがらがった割り勘
テレビ棋戦の裏側
歌詞といえばみゆき様
中央線のナゾ
ギネスに挑戦します
加藤九段の「純」
デレ光君の事情①
デレ光君の事情②
「120面指し」達成!!
おい、サギサワよ・・・・・
古道具屋をめぐる冒険
21世紀の自動チェス人形
追悼 原田泰夫九段
天才の死と「文学の毒」
スランプ百景
世界は謎に満ちている
博打から教わった
ギネスからの手紙
囲碁三昧の旅①
囲碁三昧の旅②
真部邸の惨劇①
真部邸の惨劇②
明るい未来と中島みゆき
ベテランと若手のあいだ
金さえあれば・・・・・
痛風がやって来た!?
「確率的に正しい」振り駒
コンピュータのおべんちゃら
公邸占拠下の詰将棋
アマ強豪と強い17歳
「ビッグ・マダム」との約束
避暑地の本棚
見えるほうがおかしい
そのとき、悪寒が走った
弱いけどかしこい
「羽生7冠」よりすごい
「ボクシング将棋」の夢
計算ずくで席を立つ
先崎×行方、恐怖の夜
棋士は絵がヘタである
たかが、されど3キロ①
たかが、されど3キロ②
赤、黄、緑の詰将棋
歴史のなかの名人戦
西原邸の悪夢
私見 囲碁将棋盛衰録
「ばか詰」と30分
ブログの流行に思う
マラドーナ・チョップ
「八戸の名士」の死
山手線内回りのゲリラ
石垣島で考えた
ビールを呑む8人の男
長い長い半年
負けたら坊主
誤配がもたらした幸運
酔っぱらい以下だった
海辺のカリスマ
桜の樹の下には
大田学さんの思い出
面白かった本まとめ(2007年)
面白かった本まとめ(2006年)
面白かった本まとめ(~2006年)
<今日の独り言>
東京から福岡へ家族で旅行をするのに新幹線で行くか飛行機で行くかで悩みました。息子が4歳なので飛行機の料金はかかりますが、新幹線は無料です。なので、通常料金だと新幹線が安いのですが、ネットで検索していると飛行機で往復17,800円というのを発見しました。すごい。新幹線だと片道22,520円なので、子供分を含めても飛行機が36,680円も安いことになります。しかし、往復17,800円というのは異常な安さです。ただし平日利用など制限はありますけどね。
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