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生物と無生物のあいだ(福岡伸一)

<金曜は本の紹介>

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 この本は、現在、青山学院大学教授である福岡伸一さんが、ウイルスとは何か、DNAとは何か、DNA発見までの道筋とそのダークサイド、そして動的平衡論から生物を無生物から区別するものは何か等について分かりやすく書かれた本です。

 特に、現在は野口英世の評価が違うということ(光学顕微鏡で見えるはずのない狂犬病や黄熱病のウイルスを野口英世が発見したと発表していること)、米国の研究者のシステム、DNAやタンパク質について、身体の一見固定的な構造に見える骨や歯ですらも分子レベルでは絶え間のない分解と合成が繰り返されていることなどが興味深かったです。

 生物とは何かについて知識が深まる良書だと思います!とてもオススメです!

以下は、特に感銘を受けた個所です。

・ウイルスは、栄養を摂取することがない。呼吸もしない。もちろん二酸化炭素を出すことも、老廃物を排泄することもない。つまり一切の代謝を行っていない。ウイルスを、混じり物がない純粋な状態まで精製し、特殊な条件で濃縮すると、「結晶化」することができる。これはウエットで不定形の細胞ではまったく考えられないことである。つまりウイルスは、鉱物に似たまぎれもない物質なのである。しかしウイルスは自己複製能力を持つ。ウイルスのこの能力は、タンパク質の甲殻の内部に鎮座する単一の分子に担保されている。核酸=DNAもしくはRNAである。ウイルスが自己を複製する様相はまさしくエイリアンさながらである。ウイルスは単独では何もできない。ウイルスは細胞に寄生することによってのみ複製する。

・DNAにはその配列の中に、生命の形質を転換させるほどの情報が書き込まれている。では、たった4種の文字はどのような方法で情報を担っているのであろうか。A、C、G、Tで表されるアルファベットは、化学用語でいうとヌクレオチドと呼ばれるDNAの構成単位である。このような構成単位とその連なりという原理は、生命現象全般にわたって貫かれている構造でもある。当初、遺伝子の本体と目されていたタンパク質も、その構造原理はDNAときわめて類似している。タンパク質は紐状の高分子であり、その紐には数珠玉が連なっている。数珠玉はアミノ酸と呼ばれる化学物質である。タンパク質の紐を構成するアミノ酸は20種類もある。DNAとタンパク質には次のような並行的な対応関係がある
高分子     構成単位  種類   機能
核酸(DNA) ヌクレオチド  4種  遺伝情報の担い手
タンパク質   アミノ酸   20種  生命活動の担い手

・DNAは、互いに他を写した対構造をしている。この相補性は、部分的な修復だけでなく、DNAが自ら全体を複製する機構をも担保している。二重ラセンがほどけると、センス鎖とアンチセンス鎖に分かれる。そえぞれを鋳型にして新しい鎖を合成すれば、つまりセンス鎖は、それをもとに新しいアンチセンス鎖を、もとのアンチセンス鎖は、新しいセンス鎖を合成すれば、そこにはツー・ペアのDNAニ重ラセンが誕生する。一本の鎖が存在すれば、その文字配列に沿って、順に、対合する文字をひろって他方の鎖が合成され、その文字配列は自動的に決定される。これが生命の自己複製システムである。ひとつの細胞が分裂してできた二つの娘細胞に、このDNAを一組ずつ分配すれば、生命は子孫を残すことができる。そしてこれは地球上に生命が現れたとされる38億年前からずっと行われてきたことなのである。

・それまでは、脂肪組織は余分のエネルギーを貯蔵する倉庫であると見なされていた。大量の仕入れがあったときはそこに蓄え、不足すれば搬出する、と。同位体実験の結果はまったく違っていた。貯蔵庫の外で、需要と供給のバランスがとれているときでも、内部の在庫品は運び出され、一方で新しい品物を運び入れる。脂肪組織は驚くべき速さで、その中身を入れ替えながら、見かけ上、ためている風をよそおっているのだ。すべての原子は生命体の中を流れ、通り抜けているのである。よく私たちはしばしば知人と久闊を叙するとき、「お変わりありませんね」などと挨拶を交わすが、半年、あるいは1年ほど会わずにいれば、分子のレベルでは我々はすっかり入れ替わっていて、お変わりありまくりなのである。かつてあなたの一部であった原子や分子はもうすでにあなたの内部には存在しない。

・生物が生きているかぎり、栄養学的要求とは無関係に、生体高分子も低分子代謝物質もともに変化して止まない。生命とは代謝の持続的変化であり、この変化こそが生命の真の姿である。新しい生命観誕生の瞬間だった。

・生命とは動的平衡(ダイナミック・イクイリブリアム)にある流れである。

・ある種の異常では、廃物の蓄積速度が、それをくみ出す速度を上回り、やがて蓄積されたエントロピーが生命を危機的な状態に追い込む。その典型例が、タンパク質のコンフォメーション病として最近注目されるようになったアルツハイマー病や狂牛病・ヤコブ病に代表されるプリオン病である。前者では、アミロド前駆体と呼ばれるタンパク質が、後者では異常型プリオンタンパク質と呼ばれるタンパク質が構造に異常を来たし、脳の内部に蓄積する。おそらくごく初期の段階では、異常タンパク質は生体に備わった分解機構、除去機能によって排除されるのだろう。だから健康な人が高頻度で発症することはない。蓄積が一定閾値を超えて進行すると、除去機能のキャパシティを上回り、やがて異常タンパク質の塊が脳細胞を圧迫するようになるのだ。

・プリオンタンパク質を完全に欠損したマウスは異常にならない。ところが、頭から3分の1を失った不完全なプリオンタンパク質、すなわち部分的な欠落をもつジグゾーパズルは、マウスに致命的な異常をもたらしてしまった。ピースの部分的な欠落のほうがより破壊的なダメージをもたらす。むしろ最初からピース全体がないほうがましなのだ。このようなふるまいをするシステムとは一体どのようなものなのだろうか。 過去、試みられた遺伝子ノックアウト実験は、個体に何の異常も起こらないものが多々ある一方で、誕生を迎えないまま胚がその分化を止めてしまうような致死的なケースも多数あった。致死的なノックアウト実験が示すことは、その遺伝子が、発生上欠くことのできない重要なピースであることだけである。このような致命的な欠落ではなく、その欠落に対してバックアップやバイパスが可能な場合、動的平衡系は何とか埋め合わせをしてシステムを最適化する応答性と可変性を持っている。それが動的な平衡の特性でもある。これは生命現象が時に示す寛容さあるいは許容性といってもよい。平衡はあらゆる部分で常に分解と合成を繰り返しながら、状況に順応するだけの滑らかさとやわらかさを発揮するのだ。

<目次>
プロローグ
第1章 ヨークアベニュー、66丁目、ニューヨーク
第2章 アンサング・ヒーロー
第3章 フォー・レター・ワード
第4章 シャルガフのパズル
第5章 サーファー・ゲッツ・ノーベルプライズ
第6章 ダークサイド・オブ・DNA
第7章 チャンスは、準備された心に降り立つ
第8章 原子が秩序を生み出すとき
第9章 動的平衡(ダイナミック・イクイリブリアム)とは何か
第10章 タンパク質のかすかな口づけ
第11章 内部の内部は外部である
第12章 細胞膜のダイナミズム
第13章 膜にかたちを与えるもの
第14章 数・タイミング・ノックアウト
第15章 時間という名の解けない折り紙
エピローグ

面白かった本まとめ(2007年)
面白かった本まとめ(2006年)
面白かった本まとめ(~2006年)

<今日の独り言>
amazonで本やDVDを買いましたが、夜中に注文したのに次の日には送られてきたのには驚きました!早過ぎる!!

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