<金曜は本の紹介>
「リストラなしの「年輪経営」」という本は、伊那食品工業株式会社の社長や会長に就任し、相場商品だった寒天の安定供給体制を確立し、医薬・バイオ・介護食などに新たな市場を開拓した功績が認められて1996年に黄綬褒章を受賞し、1958年の会社設立から48年間連続の増収増員増益を達成した塚越寛さんが書いたものです。
本書では、会社経営とは社員を大切にし、それを通じて社会に貢献することが目的であり、そのためにはいい時も悪い時も無理をせず、低成長を志して自然体の経営をすること、すなわち木の年輪のように少しずつではあるけど前年より確実に成長することが大切ということについて書かれています。
そのほか具体的には以下について書かれています。
どれも心にしみいる内容でした。
・経営とは会社の数字と社員の幸せのバランスをとること
・二宮尊徳の言葉(遠きをはかる者は富む)を経営戦略の柱としてきた
・ブームに乗って売り上げが上がったが、ブームが終わった後の後遺症を脱するには数年かかった
・会社はまず社員を幸せにするためにある
・人の犠牲の上にたった利益は利益ではない
・会社は製造・販売・開発・財務などそれぞれの筋肉がバランスよく強くなることが重要
・利益は社員の幸せを増やすために使うべき
・安売りは消費者のためにはならない
・ブランド化して適正な利益を確保することが大切
・信頼される商品を提供してファンをつくることが大切
・コスト削減、リストラが目的の会社は問題
・ケチは悪循環の始まり
・社員のモチベーションを上げるのはお金や地位ではなくて、去年より良くなった、去年より幸せだと感じること
・仕入先は安易に変えない
・商品が良いものであるだけではなく、商売の相手先との信頼関係が大切
・仕入先に不当な値引きは要求しないし、不当な値引きを要求する売り先とは取引をやめる
・過度な値引きや過剰なサービスは商売を疲弊させる
・新しい商品を開発して自ら市場を創り出すと安売り競争にさらされず適正な利益を確保できる
・自前設備が競争力を生んだ
・株式上場は株主の利益が最優先となり社員を犠牲にしてしまう
・いい商品であれば時間をかければ必ず受け入れられる
・トレンド軸ではなく、人間が本来あるべき姿に向かっていこうとする進歩軸に乗ることが重要
・海外で仕事をする場合はできるだけ多くの人と会い、信用できる人を見つけることが大切
・言葉遣いを良くする、丁寧な挨拶、掃除を徹底が大切
・会社経営の要諦はファンづくり
・掃除をすることは商売繁盛のコツ
・やる気になって知恵を出すことが大切
・社員を守るための投資を惜しんではならない
・幸せになるには人から感謝されること
・人に迷惑をかけないことが大切
・残された人生に限りがあると考え大切に生きることが重要
・仕事が苦しければ苦しいほど達成したときの感動は大きい
・整理・整頓・清掃・清潔・しつけの5Sが大切
・社員を採用するときに強調力が大切
・知識・経験のうえに知恵を生むことが大切
・あてにしていなかった物を偶然に見つけだすセレンディピティが大切
・逆境が人間としての基礎を築く
・日本は観光立国が発展させる一つのポイント
・観光には見るもの・買うもの・美味しいもの・学び・癒しが必要
・会社を永続させるには常に改革が必要
本書の字はかなり大きく読みやすく、そんなに文字量は多くないのですが、内容に無駄がなく心にしみいり、よくまとまっているのには、とても驚きましたね。
良書だと思いますので、とてもオススメです!
なお、この会社が運営する「かんてんぱぱガーデン」は自然を生かした公園で、年間30万人も訪れるようなので、ぜひ行ってみたいと思いましたね。
「リストラなしの「年輪経営」」という本はとてもオススメです!
以下はこの本のポイント等です。
・会社ですから、売上げが伸びなくては経営が成り立ちません。利益が出ないようでは、会社の存続さえ危うくなります。私も、売上げや利益の大切さは、良く分かっているつもりです。しかし、売上げや利益が増えることを目的にすると、社員の幸せが二の次にされてしまいます。早い話が、利益を増やすためには、人件費や福利厚生費、さらには地域貢献やメセナ活動などを減らすことが有効と考えられてしまうわけです。これでは本末転倒だろう、と私には映ります。経営とは「会社の数字」と「社員の幸せ」のバランスをとることだと思います。このバランスこそ、経営者が最も求められるものです。ところが、最近の企業経営では「会社の数字」の方に重きが行き過ぎて、バランスが崩れているのではないでしょうか。
・私は二宮尊徳の次の言葉を「経営戦略」の柱としてきました。今なお少しも古びていません。
遠きをはかる者は富み
近くをはかる者は貧す
それ遠きをはかる者は百年のために
杉苗を植う
まして春まきて秋実る物においてをや
故に富有り
近くをはかる者は
春植えて秋実る物をも尚遠しとして植えず
唯眼前の利に迷うてまかずして取り
植えずして刈り取る事のみ眼につく
故に貧窮す
二宮尊徳
・会社ですから、山あり谷ありです。しかし、いい時も悪い時も無理をせず、低成長を志して、自然体の経営に努めてきました。私はこの経営のやり方を「年輪経営」と呼んでいます。木の年輪のように少しずつではありますが、前年より確実に成長していく。この年輪のような経営こそ、私の理想とするところです。年輪は、その年の天候によって大きく育つこともあれば、小さいこともあります。しかし、前の年よりは、確実に広がっている。年輪の幅は狭くとも、確実に広がっていくことが大切なのです。年輪の幅は、若い木ほど大きく育ちます。年数が経ってくると、幅自体は小さくなります。それが自然です。会社もそうあるのが自然だと思います。会社も若いうちは、成長の度合いが大きいものです。年数を経てくると成長の割合は下がってきますが、幹(会社)自体が大きくなっているので、成長の絶対量は増えているものです。また、木々は無理に成長しようとはしません。年輪は幅の広いところほど弱いものです。逆に、狭い部分は堅くて強いものです。こうしたところにも、見習うべき点があります。実は、年輪経営にとって、最大の敵は「急成長」なのです。
・2005年、伊那食品工業はそれまでやったことのなかった昼夜兼行態勢で寒天の増産に取り組みました。その結果、この年の売上げは前年比40%増となりました。かつてない伸び率に、私は喜びではなく懸念を感じていました。案の定、寒天ブームが一段落した2006年からは、売上げが減少に転じました。利益も前年を下回りました。過大な設備投資などはしていなかったので、通常の生産体制に戻すだけで、大きな痛手は受けなかったのですが、それでもこの後遺症から脱するには数年かかりました。
・ブームに巻き込まれたら、どうしたら良いでしょうか。孤塁を守って、知らんふりをしているわけにもいきません。私は「ブームで得た利益は、自分の力で儲けたものではないから、人様から一時的に預かっているもの」と考えました。一時預かっているものですから、将来必ず出て行くものというわけです。逆に、何かの事情で、自分の過ちではなくて損をした場合は、こう考えるようにしていいます。「自分の力でなくて損をしたら、自分の罪じゃなくて損をしたら、それは人様に預けてあると思え」。年輪経営を理想にして、「遠きをはかる」商売をコツコツと続けていれば、いずれ必ず帳尻は合ってくるものだと思っています。
・私は、会社はまず社員を幸せにするためにあると考えています。売上げを増やすのも、利益を上げるのも、社員を幸せにするための手段に過ぎません。年輪経営は、「売上げも利益も前年を上回ればいい」ことが目安です。大幅な売上げ増、利益増は、求めていません。何かのチャンスがあって、無理をすれば一年でできることも、自然体で二年、三年と時間をかけて達成していきます。その方が、会社を永続させることにもつながるわけです。私は、会社が成長するということは、社員が「あっ、前より快適になったな、前より幸せになったな」と実感できることだと考えています。
・私は「人の犠牲の上にたった利益は利益ではない」と自らを戒めています。例えば、仕入先に無理を言って、納入してもらう商品の価格を低く抑えることはしません。商品は適正な価格で買いますが、仕入先が原価割れになるような無茶な要求はしないということです。商売の基本は、「売り手」と「買い手」が対等であることです。私たちも利益も得ますが、相手も利益を得られないといけないわけです。自社の利益を優先して考えれば、相手先を搾りに搾るということになるかも知れませんが、そんな関係は長続きしません。当社は、「利益」ではなく、「永続」に価値を見出そうとする企業です。だから一時の利益のために、良好な仕入先を失うような愚かな真似を犯したくありません。私たちが商品を販売する場合でも、適正な価格で購入して頂けるようにお願いします。もし、あまりに無理なことを要求されたら、取引きできないことを伝えています。
・筋肉質の会社というのは、パワーがあるということです。しかし、腕の筋肉だけ強いとか、足の筋肉だけ強いというのでは、バランスが取れていません。会社も、製造、販売、開発、財務など、それぞれの筋肉がバランスよく強くなっていることが必要です。さらに、健康な体は血液の巡りが良く、神経も末端まで発達しているものです。血液の巡りがいいというのは、会社で言えば、社内の指揮命令系統が整っていて、情報や指示が素早く回ることでしょう。神経が発達しているというのは、社員みんなが世の中の変化に対して敏感で、素早く対応できることを意味します。先見性があると表現してもいいかもしれません。
・私は利益を「社員の幸せ」を増やすために、使おうと考えています。単純に、給料を上げればいいというものではありません。一時的に大盤振る舞いしても、会社が続いていかないようでは元も子もありません。毎年、少しずつでも給料が上がっていくことで、社員の幸せ感も増していくものです。ここ10年間、毎年10億円以上続けてきた投資にしても、生産設備の増強だけに費やしてきたわけではありません。社員の職場環境を良くしようとして本社敷地の公園化、社屋の拡充なdに、また福利厚生の充実に、かなりの額を振り向けました。社員たちに「去年より快適な会社、仕事場になった」と感じてもらいたいからです。他の経営者からは「もっと工場とか機械に投資すればいいのに」と見られているかもしれません。しかし、私は手狭になったので、新しい社屋を建てたり、敷地内の公園の整備に努めました。社員旅行も40年前から、会社が補助を出して隔年で海外旅行を実施してきました。さらに、地域貢献として、歩道橋を設けて通学路としたり、公道が利用できるにもかかわらず、混雑を避けるために脇に私道を作ったりしました。他にも、伝統芸能である「能と狂言」を地元で楽しんでもらうための「伊那能」や、小沢征爾氏が指揮する「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」などに協賛を続けています。最近は全国から140校が集まる屈指の大会となった「春の高校伊那駅伝」に、まだマイナーな大会だった1992年から協賛してきました。
・「いい会社」をつくるための10箇条
1 常にいい製品をつくる。
2 売れるからといってつくり過ぎない、売り過ぎない。
3 できるだけ定価販売を心がけ、値引きをしない。
4 お客様の立場に立ったものづくりとサービスを心がける。
5 美しい工場・店舗・庭づくりをする。
6 上品なパッケージ、センスのいい広告を行う。
7 メセナ活動とボランティア等の社会貢献を行う。
8 仕入先を大切にする
9 経営理念を全員が理解し、企業イメージを高める。
10 以上のことを確実に実行し、継続する。
・世の中を見渡すと、激安、安売り王、価格破壊といった言葉が氾濫しています。安売りだ、安売りだという商売は、本当に消費者のためになっているのでしょうか。モノを買う消費者も、一方では商品の供給会社の従業員であるわけです。適正価格での販売こそ、供給会社の利益を生み、その社員の購買力を高める源泉となります。販売業者も供給業者も適正な利益を上げ、その利益が会社を大きくすることだけに使われるのではなく、社員に適正配分されれば、GDPの6割を占める国民消費が盛んになるのは当然です。そう考えれば、国民消費を盛んにし、景気を良くするためには、適正な利益の確保とその配分が重要になってくるわけです。ブランド化を目指すことは適正な利益を確保することにつながります。そして、企業永続の鍵にもなります。言い換えれば、ブランド化つまり「信頼される商品を提供して、ファンをつくる」ことが、企業経営そのものなのです。
・私は、「ケチは悪循環の始まり」と言っています。人件費や福利厚生費をケチるとどうなるか。社員のやる気は低下するでしょう。社員のやる気が低下すれば、会社の活力が落ちます。下手をすれば、事故が増えるかもしれません。それは業績の悪化という結果につながります。また、給料が下がるようなことがあれば、どうでしょう。社員たちは財布の口を堅く閉めて、モノを買わなくなります。消費が落ち込んでいきます。日本のGDPの6割を消費が占めているわけですから、消費の落ち込みは日本経済の減退を進めます。当然、回りまわって、自分の会社の業績にも悪影響を及ぼすことでしょう。それまで行っていたメセナ活動や地域貢献を取り止めれば、それに関わっていた人たちの活動を縮小することとなり、やはり経済の悪化につながります。このように、自分の会社の経費をケチれば、いろいろな面から経済全体が後退し、ひいては自分の会社の業績の悪化につながります。そうなれば、会社はますます経費削減に励み、さらにケチになるわけです。もっとケチになれば、経済はもっと悪くなる。すると会社ももっと苦しくなる。つまり、悪循環に陥るわけです。自分の会社だけケチっても全体に影響はなく、他社が使ってくれるとみんな思っていることが、問題なのです。
・個人を特別に評価する成果主義や能力給の制度を導入すると、目先に表れる数字にだけ関心がいってしまいます。社員同士の協調よりも、自分の成績が大事になるわけです。極端な場合は、となりの社員の成績不振を喜んだりします。成績の悪い年長者を軽んじるような風潮も生まれます。これでは、社内の「和」は保てません。なにも会社を仲良しクラブにしろと言っているわけではありません。むしろ、会社の真の成長を求めて、いつも侃々諤々の議論が巻き起こっている方が望ましい。ただし、会社というのは、社内一丸となって事に当たる時が、いちばん力が発揮できます。そうした「一丸となって頑張る」力を、成果主義や能力給は削ぎかねません。
・若い人が望んでいるのは、穏やかな人間関係の中で、自由にのびのびと仕事ができる職場です。これは甘えを許すこととは違います。自分で自分を律しながら、常に向上心を持ち、新たな目標に挑戦していかなければ、会社にとって必要な人材とは認められません。管理されるよりも、もっと難しいことなのです。よほど高いモチベーションを持たない限り、実行できないでしょう。私は、社員のモチベーションを上げるのは、お金や地位ではなくて、「働いて、去年より良くなった、去年より幸せだ」と感じられることだと思います。去年よりも今年、今年より来年の方が、幸せ感が増してくるような会社。そんな会社にいれば、自然とモチベーションは上がってきます。
・私が仕入先を安易に変えないことにしたのは、老舗企業の経営に学んだことです。100年、200年と続く老舗には、それだけの多くの知恵があります。幾つもの尊敬できる老舗企業から、真の老舗になるための条件を、私なりり5つ導き出させてもらいました。以下のようなものです。
1 無理な成長はしない。
2 安いというだけで仕入先を変えない。
3 人員整理をしない。
4 新しくより良い生産方法や材料を常に取り入れていく。
5 どうしたらお客様に喜んで頂けるかという思いを常に持ち続ける。
・商売の取引きにおいては、商品が良いものであるということは基本です。しかし、商品が良いだけではダメなのです。こう話すと、多くの方が「次は価格でしょう」と考えるようですが、私は価格より大切なものがあると信じています。それは、商売をさせて頂く相手先との信頼関係です。価格は安いけれど信頼関係のない相手先と、価格は少し高いけれど信頼関係のある相手先を考えた場合、私は信頼関係のある相手先を選びます。価格よりは信頼が大切だと思うからです。老舗企業が、簡単には仕入先を変えないのも、こうした理由があるからではないでしょうか。では、信頼関係はどうやって築けばいいのでしょうか。もちろん、相手の人格や気持ちを理解することは必要です。でも、ただ親しいだけでは、信頼関係ができているとは言えません。大切なのは、商売や経営の面で、正しい理念で結ばれていることだと思います。正しい理念を共有しているということです。それがあって初めて、商売上の信頼関係が築けたと言えると思います。
・私は当社の営業マンたちには、「理不尽な要求や屈辱的な取引を強要されるようならば、大きな商いであっても、きっぱりと断っていい」と言ってあります。かつて大口のお得意様だった会社の仕入れ担当者が替わり、前任者の時より価格を下げるように要求されたことがありました。新しい担当者は自分の成績を上げるために、値引きを強要している様子でした。その会社とは、かなり大きな商売をさせて頂いたのですが、その時は、取引を止めざるを得ないと判断しました。「買ってあげるんだから、俺たちの方が偉いんだ」というような態度は間違っています。自戒も込めて繰り返しますが、商売は売り手と買い手が対等なものです。ともに繁栄していくのが、正しいあり方だと思います。買い手がバイイングパワーにものを言わせるような取引は、長い目で見れば上手くいきません。
・過度な値引きや過剰なサービスなどは、商売を疲弊させます。最初は飛びついたお客様も、だんだんと慣れてきて、より「過激なもの」を望むようになります。「過激さ」には当然、限界があります。「過激さ」の果てには、会社の消滅が待っているだけです。当面は苦しくても、「良いものを適正な値段で売る」ことが、将来的には一番特になります。まさに「遠きをはかる」経営です。
・当社の強みは、新しい商品をかいはつして、自ら市場を創り出すところにあります。そこでは、当社の製品が高いシェアを持てるわけです。無益な安売り競争にさらされることもありません。これが適正な利益を確保できることにつながります。もうひとつ、当社の強みがあります。それは、工場に設置する生産機械をかなりの程度まで、自社でつくってきたということです。これによって、オリジナルな生産設備が多くできました。そのため、当社でヒット商品が生まれても、他社は簡単には真似ができなかったようです。さらに、機械工作の部門を持ったことで、機械のメンテナンス力も上がりました。故障してもすぐ直せます。改善も容易です。このため、工場の稼働率もたかくなりました。
・上場会社が、株主の利益を重視することは当たり前です。しかし、最近の傾向を見ると、あまりにアメリカ的な「株主の利益最優先」の考え方が、株式市場を覆っています。社員の幸せより、株主の利益を優先させるために、社員の給料よりも、株主への配当を重視することになりがちです。リストラなどは、その最たるものでしょう。リストラ策を打ち出すと、株価が上がったりします。こrは、社員を犠牲にして、株主や投資家たちの利益を守ろうとする以外のなにものでもありません。
・自分の勤めている会社が、研究開発型の企業目指しているということは、社員のモチベーションアップにもつながります。新しい技術や商品を生み出して、社会に貢献していく姿勢は、末広がりの明るい将来を感じさせるものです。既存市場で「取った、取られた」のシェア争いを演じているより、新しい市場を開拓できるような商品を生み出し、それによってシェアを獲得していくという経営姿勢は、社員に希望を抱かせると思います。
・世の中にあろうがなかろうが、世の中で売れていようが売れていまいが、そんなことには関係なく「自分たちがいいと思うものをつくろう」という姿勢を、私は貫きたいと考えています。もちろん、期待はずれの商品を出てきます。でも、不思議なことに、それほど気にはかかりません。思うに、これまで市場ゼロのところからコツコツと開拓してきたので、「いい商品」であれば時間をかければ必ず受け入れられると、体験的にしみついているのでしょう。マーケット・リサーチというのは、既に過去になったものを調査しているわけです。その類のリサーチというのは結果を数字で表しますが、この数字自体が過去のものと言えます。まさに、数字を追っている人は、過去の方ばかりを見ている人なのです。それでは「いい商品」は生み出せません。「いい商品」とは、「これは人びとの役に立つな」「これは人々を幸せにするな」と感じられるものです。ちょっと分かりにくいかもしれませんが、「人間のあるべき姿」を追っている商品だと、私は理解しています。人間の進歩していく方向に沿った商品ということです。こうした商品は、いずれ必ず花開きます。
・経営戦略を立てる時に、私は「進歩軸」と「トレンド軸」という2つの座標軸から判断することにしています。「進歩軸」とは、人間が過去から現在、そして未来へと進歩していく方向を示すものです。人間は紆余曲折しながらも、大きな流れとしては「幸せ」や「理想」に近づこうと進歩しています。世の中がよくなっていこうとする、人間が本来あるべき姿に向かっていこうとする、その時に辿るのが「進歩軸」です。ですから、「進歩軸」は過去から未来に貫く縦の時間軸になります。「トレンド軸」は、その時どきの流行を示すものです。「進歩軸」に直角に交わるイメージとなります。その時代時代で流行るものが、「トレンド軸」に乗っているわけです。流行は振り子のように振れます。だから、世の中の関心は「トレンド軸」の上を行ったり来たりします。例えば、商品を開発する場合も、この「進歩軸」と「トレンド軸」を意識することが大切です。流行は大切ですが、それを追い回しすぎると、振り子が戻った時に痛い目に遭います。それよりも、「進歩軸」に沿ったような商品をじっくりと育てることを心掛けてきました。人間が幸福になるような方向の商品であれば、いつかは報われるものです。最近の流行で言えば、「地球環境に優しい商品」があります。流行りのように見えるので、「トレンド軸」に乗っているように思われますが、根底には「人類の末永い幸福のため」という命題が横たわっており、「進歩軸」に合った商品群といえます。
・インドネシアに初めて出向いた時も、ほとんど報酬も受けずに、海藻の養殖から指導しました。そうして信用を得られるようになると、海外の経営者たちもだんだんと寒天の製造技術だけでなく、経営指導も受け入れてくれるようになりました。私の言うことは、日本でやっていることと同じです。会社の敷地には木を植えなさい、社員を大切にしなさい、と話しました。木を植えることは、環境への意識を高めることに役立ちます。一方、社員を大切にすることは、インドネシアの企業ではあまり一般的ではなかったようです。というの、インドネシアでは労働力がありあまっている状態だからです。それでも私は口をすっぱくして「社員は大切にしろよ。それが経営のコツだから」と言い続けました。ある時、インドネシアで暴動が起きて、日頃ひどい扱いを受けていた労働者たちが、会社を襲うという事態が発生しました。ところが、私が指導していた会社では、そういう暴動は起きなかったのです。後で、そこの経営者からは大変感謝されました。
・海外に進出する場合、大切なのは「どこそこの原料が安い」「あそこの土地は広い」「ここの人件費は低くできる」といったことではありません。いかに「信用」できる人を見つけ、その人と手を組めるかどうかです。ですから、私は海外で仕事をする場合、できるだけ多くの人と会い、そのなかで「信用」できる人を見つけることから始めることにしています。
・中小企業でもすぐにできることは、たくさんあります。言葉遣いを良くする、丁寧な挨拶を心がける、掃除を徹底させる-これなら、お金もかけずに、今すぐにできるでしょう。「そんなこと」と、バカにしてはいけません。こうしたことが、ファンづくりにつながるのです。
・会社経営の要諦は「ファンづくり」にあると言えます。いかにして、ファンを増やしていくか。経営者は、そのことに腐心しなければなりません。マス媒体を使った広告宣伝などを見て、当社の製品を買ってくれたお客様は、大切なお客様ではありますが、まだファンではありません。そこから、もう一歩進んでファンになって頂く努力をする、それが経営なのです。お客様だけではありません。仕入れ先や得意先、地域の人たちにもファンになって頂きたいと考えています。
・どんなに大きなビジネスでも、最後は一人対一人です。この一人を大切にできないようでは、いずれその会社は衰退していくことでしょう。一人ひとりのお客様を大切にし、ファンになって頂く。そうすれば、そのファンの方が当社のことを周りの人たちに伝えてくれまs。それは、マス媒体の宣伝より遙かに効果的です。そうしてネズミ算式に、ファンが広がっていけば、そのほうが「会社の素粒子」は増えていきます。社員一人ひとりが一日に何人のファンをつくれるのかーkのことが会社の命運を握っているのです。そして、いかにそれを継続できるか、が大切です。
・どんな中小企業でも、個人事業でも、やる気になれば今すぐできて、効果抜群なのが(といっても、少し長い目で見てのことですが)、掃除です。たかが掃除と、バカにしてはいけません。掃除をすることは、商売繁盛のコツなのです。きれいなところ、美しい場所に、人は集まってきます。人が集まってくるということは、そこに価値が生まれるということです。掃除が行き届き、木や花が植えてある会社は、それだけでイメージアップに貢献します。それこそ、商売の基本でしょう。私は「掃除はもの言わぬ営業マン」と言っています。
・みなさんも、いろいろな会社に伺うことがあると思います。そんな折りに、掃除が行き届いているかどうか、観察することは有意義です。やはり、きれいにしている会社は信頼できます。
・人間はやる気になって知恵を出し、体を動かせば、2倍、3倍の能力を発揮します。機械の稼働率を上げたり、新しい機械を入れたりするより、よほど効果的です。当社にいる400人の社員が2倍働くようになれば、800人の社員を抱えているのと同じです。生産性は、飛躍的に向上します。資金が乏しい時期を過ごしたお陰で、私は「最大の生産性向上策は、社員のやる気アップだ」という確信を得ました。新しい機械やITを入れるよりは、社員のモチベーションアップの方が大きな力になります。
・「目の玉が飛び出る」ほど高い新型プレス機を導入して、その後どうなったのか。まず、安全性は確保できました。加えて、生産性も大幅に向上しました。何よりも、社員が喜んでくれて、やる気がアップしたのです。それによって、会社の経営にもプラスに働きました。結果として、この決断は大成功でした。そして、私は大きなことを学びました。「社員をケガから守りたい」という動機が正しかったから、好い結果につながったということです。動機が善であれば上手くいく-これが私の信念になりました。社員を守るための投資を惜しんではならないと確信したのです。
・人が幸せになる一番の方法は、大きな会社をつくることではありません。お金を儲けることでもありません。それは、人から感謝されることです。人のために何かして喜ばれると、すごく幸せな気分になるでしょう。そのことを仏教では「利他」と言います。幸せになりたかったら人に感謝されることをしなさい、ということです。私は半世紀に亘って会社を経営してきましたが、人のためになることをして損をしたことは一つもありません。むしろ、もっと大きくなって自分のところに返ってきます。これは経験から、確信をもって言えることです。
・私が言う「立派」とは、人に迷惑をかけないということです。迷惑をかける人は、「悪い人」になります。人や社会に迷惑をかけない人が、「立派な人」です。ただし、この「立派」には、三段階あります。まず「小さな立派」ということがあります。これは、単に人に迷惑をかけないことです。「中くらいの立派」は、少しでも人の役に立つことを意味します。迷惑をかけないだけでなく、何かちょっとでもいいから良いことをすることです。家族のため、友だちのために何か役立つことをしても良いのでしょう。一番立派な「大きな立派」は、大勢の人、社会の役に立つことです。家族や友人以外の知らない人も含めた大勢の人に対して、良い行いをするわけです。この「大きな立派」を心がけている人には、大きな幸せがもたらされるに違いありません。
・「いいか、この100年カレンダーをよく見てみろ。この中に、君たちの命日が必ずある。私のは、カレンダーの上の方だろう。君たちは、中ほどだ。でも、必ずこの中にある」いきなり命日の話をされて、新入社員たちも面食らいます。若いときには死をさほど意識しません。だから、時間はタップリあると思っています。しかし、100年カレンダーを見せることで、人生は限りあるものだということを肌で感じとらせるわけです。いくら若くても、残された時間には限りがあります。だから、生きているうちに、頭を使って、体を使って、やれるだけのことをやらなければ損でしょう。そして、自分が幸せになりたいと思ったら、人に喜んでもらうようなことをしなさい、と話します。前に述べた「利他」の心を持つということです。
・今の世の中は「楽したら得」という風潮が蔓延しています。しかし、これは間違いです。仕事が苦しければ苦しいほど、それを達成した時の感動は大きいものです。人の役に立って感謝されることほど喜びを感じることはありません。一度しかない人生で、こうした感動や喜びを味わわないのは、大きな損をしていることに他なりません。研修ではさらに「教育勅語」を学びます。戦後民主主義教育の中で、「教育勅語」は否定されましたが、私は人間の守るべき規範として大切な内容が盛り込まれていると考えています。親孝行、兄弟の友愛、夫婦の和、人格の向上、博愛の心など、日本の伝統的道徳が表れています。これを若いうちに学ぶことは、有益だと思います。
・当社では、「整理、整頓、清掃、清潔、しつけ」という「基本の5S」を、新入社員に徹底的に叩き込みます。いずれも体を使って行うことです。
・社員を採用する時に、私が最も重視するのは「協調力」です。どんなに優れた能力を持っていても、どんなに高い学歴を持っていても、この協調力が欠けているような人間は採用しません。協調力というのは、周りを思いやる気持ち、支え合おうという精神です。ですから、協調力のある人間は日常の注意力が高いはずです。気配りも、その一つです。朝、元気に「おはようございます」と言われれば、誰でも気持ちがいいでしょう。ちょっとした休みに、冗談を言って周りを和ませるのも大切なことです。自ら進んで掃除をするのも、協調力の表れです。このように一見仕事とは関係ない行いでも、当社では評価することになっています。
・机上で学んだだけの知識では、実際の仕事では役立ちません。知識は知識でしかないのです。必要なのは、知恵です。知恵とは、知識+経験です。知識と経験が一緒になって発酵しないと知恵は生まれません。同じ経験をしても、注意力がある人は、多くの知恵を得ます。だから、注意力が大切なわけです。
・当社の研究開発部門の壁には「セレンディピティ」という言葉が掲げられています。あてにしていなかった物を偶然に見つけ出す才能、言わば「掘り出し上手」という意味です。開発能力の核心をついていると思い、大切にしています。この「セレンディピティ」は研究開発部門のスタッフだけでなく、どんな社員にも持ってもらいたい能力です。社員一人ひとりが「セレンディピティ」を発揮すれば、会社は宝の山となります。周りのことを思いやり、その中で小さなことに気づくことで、「セレンディピティ」は発揮されるのです。
・辛く苦しい日々を過ごしましたが、悪いことばかりではなかったと思います。あの逆境は、私に人間としての基礎を築いてくれたのです。貧しさ、辛さ、苦しさ、悲しさというものは、人を育てます。ひどい境遇を体験したからこそ、人の痛みや苦しみが理解できるのです。人の情けも身にしみて分かるようになるし、ささやかでも希望を持つことの大切さも分かるようになりました。これは理屈ではありません。経験しないと、分からないことです。幼い頃、貧しさや病苦を味わったお陰で、私は「人間を大切にする経営をしよう」という強い決意が持てました。伊那食品工業も創業してしばらくは貧乏な会社でした。その中でも、仲間を大切に、取引先に迷惑をかけないように、と懸命に努力したものです。少し余裕が持てたからといって、自分だけがいい思いをして、かつてお世話になった方がたや社員たちを置き去りにするようなことは、決してやるまいと心に決めています。肺結核から立ち直った時、私は「もう何も贅沢は言わない。ただ一生懸命に生きます」と誓いました。伊那食品工業に入社して、土日もなく毎日十数時間働きました。苦労とは思いません。働けるだけで幸せだったからです。今はモノが豊富になり、物質的な苦労は少なくなりました。ですから、若い人は自ら求めて、苦労を背負うことが必要です。困難を自ら求め、逆境を切り開く体験は、きっと人間を強く大きくしてくれることでしょう。
・多くの日本企業がこの間、生産基地を中国に求めました。それらの企業の売り上げは伸びたでしょうし、利益も上がったでしょう。しかし、生産基地を中国に移したことで、日本では失業者が増えました。これでは、国民は豊かになるはずがありません
・日本はこれから、どうすればいいのでしょうか。私が考える一つには、観光立国があります。「モノづくり大国」から、「観光大国」へ。これが、今後日本が生きていく一つの方向ではないでしょうか。
・観光を実現するには、5つの要素が必要です。第一に、見るに堪えるものがなくてはなりません。第二に、買う楽しみがなければなりません。第三に、美味しい食べ物がなければなりません。第四に、学びがなければなりません。第五に、癒しがなけれがなりません。この5つが揃えば、素晴らしい観光が実現すると思います。日本国中の企業が、こうした観光を志せば、見事な観光大国が生まれると思います。
・会社を永続させるためには、常に改革し続ける必要があります。新しい経営手法、新しい商品、新しい技術、新しいサービスと、どんな部門であっても、改革の波を絶やさないように心がけることです。
<目次>
はじめに
第1章 「年輪経営」を志せば、会社は永続する
会社は社員を幸せにするためにある
「良い会社」ではなく、「いい会社」を目指そう
経営とは「遠きをはかる」こと
急成長は敵、目指すべきは「年輪経営」
ブームで得た利益は、一時的な預かりものと思え
社員が「前より幸せになった」と実感できることが成長
人の犠牲の上にたった利益は、利益ではない
利益は健康な体から出るウンチである
利益それ自体に価値はない、どう使うかが大事
「苔むす会社」を目指して・・・
「いい会社」をつくるための10箇条
第二章 「社員が幸せになる」会社づくり
人件費はコストではなく、会社の目的そのものである
法人税だけが税金ではない
年功序列制度で社内の「和」を保つ
最大の効率化は幸せ感が生むモチベーション
安いからといって、仕入先を変えない
信頼関係は契約書より大切
身の丈に合わない商売はしない
たくさん売るより、きちんと売る
利益の源は新製品で市場を創造し、シェアを高くすること
性善説に基づくと経営コストは安くなる
株式上場はしない、決算は3年に1回くらいでいい
マーケット・リサーチで「いい商品」は生み出せない
経営戦略は「進歩軸」と「トレンド軸」を見極めて
安い労働力を目当てにした海外進出はしない
「社会主義には信用という概念がない」と見切る
第三章 今できる小さなことから始める
「遠きをはかり」、今すぐできることから始める
会社経営の要諦は「ファンづくり」にあり
掃除はもの言わぬ営業マン
当社のトイレには一滴のしずくも落ちていない
小さな楽しみをつくって、社員のやる気をアップさせる
社員旅行が楽しい会社は結束力がある
社員の健康を守るための投資は惜しまない
経営とはみんなのパワーを結集するゲーム
第四章 経営者は教育者でなければならない
幸せになりたかったら、人から感謝されることをやる
「立派」とは、人に迷惑をかけないこと
新入社員研修は、100年カレンダーから始まる
採用で最も重視するのは「強調力」
「コンプライアンス」という言葉は大嫌い
逆境は人を育てる
企業価値を測る物差しは「社員の幸せ度」
「凡事継続」のためには、常に改革を心がける
おわりに
<今日の独り言>
Twitterをご覧ください!フォローをよろしくお願いします。
この記事へのコメントはありません。