「決済インフラ入門【2020年版】」という本は、著者が決済インフラや金融に関する様々な法案や案件に当局や現場で対応してきた経験から、日本や世界の決済システムや決済インフラ、それらの変化、政府の方針だけでなく、具体的に現金系決済、口座振替系決済、銀行間決済、海外系決済、証券系決済、決済リスク等について体系的に非常に分かりやすく説明されたものです♪
主な章立ては以下となります♪
第1章 変わる決済インフラ
1 金融の大原則と決済インフラの潮流
2 フィンテック
3 仮想通貨
第2章 決済インフラの政府の方針と対応
省略
第3章 決済の基本
1 決済と為替
2 決済システムと決済インフラ
3 二つの決済の仕組み
4 決済の階層構造
5 中央銀行の役割
6 決済インフラにおける基本知識
7 中央銀行口座の意義
8 決済関連の関係官庁
第4章 現金系決済
1 現金
2 電子マネー
3 企業通貨
4 外国通貨
5 代引決済
6 QRコード決済・バーコード決済
第5章 口座振替系決済
1 口座振替
2 ペイジー
3 デビットカード決済
4 クレジットカード決済
5 キャリア決済
6 海外決済インフラ
7 決済代行サービス
8 システム代行
第6章 銀行間決済
1 銀行等の決済インフラ
2 決済システム
(1)日銀ネット
(2)全銀システム
(3)外為円決済システム
(4)手形交換制度
(5)電子債権記録機関
第7章 海外系決済
1 米国
2 欧州
3 英国
4 CLS銀行
5 SWIFT
6 中国
7 香港
第8章 証券系決済
1 日本
2 米国
3 欧州
4 アジア
第9章 決済リスク
1 決済リスク
2 決済リスクの分類
3 決済リスクの顕在化
4 エクスポージャーの考え方
5 決済リスクの本質的管理
6 決済リスクの削減策
最終章 近未来の決済インフラと金融
特に、各ページ下に注釈がたくさんあるのは分かりやすくて、そして面白くて特筆でしたね♪
「決済インフラ入門【2020年版】」という本は、日本だけではなく世界の最新の決済について網羅的に理解でき、とてもオススメです!
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以下はこの本のポイントなどです♪
・日本の決済はキャッシュレス比率が約2割と「現金」が多いという特徴がある。政策的に現金の電子化も進めている。今後、世界各国でそうであるが「紙幣」(特に高額紙幣)の電子化(廃止)の検討が進んでいる。日本でも1万円札があと7~10年後程度での廃止が検討されているといわれている。
・マネーロンダリング対応は、その範囲も広がってきている。規制の対象も、ビットコインを始めとした仮想通貨、電子マネー、そして骨董品(古物商)にまでもその対象が広げられようとしている。さらに、足元、日本でお札や硬貨などの現金の発行額は100兆円を超えている。そのうちいわゆる「タンス預金」は40兆円を超えている。おカネは経済を人のカラダにたとえれば”血液”である。タンス預金の割合が多いということは血の巡りが悪くなるということである。日銀の全資産量(全資金量)は約500兆円といわれているので、かなりの割合といえる。
・改正資金決済法においては、仮想通貨にある程度の「決済」機能を認めている。しかし、日本ではビックカメラをはじめとして約300程度しか取扱店舗がない。一方、その「財産的価値」としての性質に注目し、95%以上が投機対象となっている。その結果、昨年2017年にはビットコインの価格は20倍まで上昇し、その後、下落するなど乱高下した。このような商品に「決済」を担わせるのは無理があり、誰かがその外国為替のような変動リスクを負うことになる。日本では投機目的が主だが、通貨や決済インフラが弱い新興国では手軽な送金・決済手段でも使われる可能性もある。
・仮想通貨を支えるのは「ブロックチェーン(技術)」である。中心となるシステムがなく、取引の情報が公開され確認してまとめ(ブロック)、それをつなぐ(チェーン)仕組みである。ブロックチェーンもさまざまに開発されており、通貨ごとに仕組みが違う。一部のみの変更ができない。信頼のベースでもあるが、これは実際の金融では大変使いにくい。仮想通貨はマイニングか、通貨または仮想通貨との交換により入手できる。仮想通貨では計算によって承認・確認作業をするがそれをマイニングという。このマイニングという表現が、金本位制の金属通貨のときを連想させ”通貨”としてイメージしやすい単語である。具体的にはコンピューターで膨大な計算を行って回答を求める作業である。ビットコインを発掘できれば、ゼロから生み出すことになる。しかし現在では非常に困難とされている。このマイニングはビットコインはほぼ10分かかるといわれている。またコンピューターが、高度な計算をさせるために”電力”を大量に消費する。そのため、電力が安い中国でマイニングの約8割が行われているのである。(ただ中国政府により規制がかかっており、今後、廃業される見込み。必然的に中国以外の国で行うことになり、マイニングの手数料は上昇が予想される)
・ブロックチェーンの最大の特徴は「書き換え」が不能であるということである。言い換えれば、修正・取消もできないということである。全部が監視され絡み合っており、無理にしようとするならば、そのブロック全体を削除する行為が必要となる。ブロックチェーンは、皆で監視しあう分散型のシステムで、仲介役を省くことが可能になる。この観点では皆で監視しているため、当初「盗難」にも強いとみられていた。しかしコインチェック事件のように盗難が発生した。さらにモナコイン事件で、外部から書き換えられブロックチェーン(技術)の信頼性が揺らいだ。日本銀行とECB(欧州中央銀行)は分散型のブロックチェーン(技術)を中銀システムで使用できるかを検証したが、実際に決済システムに使うことはないとした。
・2018年3月にアルゼンチンで開催されたG20で、基本的に仮想通貨に対して規制を強化することになった。これまでも中国とインドは全面的に禁止し、ロシア、韓国、欧米は規制を強化していた。日本はフィンテックを推進していることもあり、いままで仮想通貨天国ともいわれていた。改正資金決済法が2017年4月に施行され、登録制度を定めたが、基本的に様子見姿勢の中、コインチェック事件が発生したのである。新興国の中国は、当初、ビットコインをはじめとした仮想通貨取引を許容したが、資本流出の防止のため、2017年9月に仮想通貨の取引を全面的に禁止した。今後、マイニングにも規制を入れる。
・ICOという言葉も、新聞等でよく見る仮想通貨の用語である。これは新しい仮想通貨(正確には権利証:トークン)を発行して資金を調達することである。準備の時間が約3ヶ月で対応が可能である。これは株式発行(上場)資金調達、いわゆるIPO株式発行(上場)が約3年かかるのに比べ格段に短く実施できる。しかし、その分、公開される情報も少なく、詐欺などの問題も多発しているため、G20をはじめ世界的に厳格な規制が入る予定である。
・中国の仮想通貨についての対応は興味深い。当初、中国は産業となると考え、「取引」と「マイニング」を活発に推進していたと考えられる。中国は資本(おカネ)の流出を抑制しており、外国為替をまず規制したが、仮想通貨もまた資本流出を防止するために一気に禁止した。2016年にはビットコインの取引の9割が中国であり、Huobi(火幣:上海)、BTCC(BTC China:上海)、OKCoin(北京)が大手3社であった。中国政府はまずICOを禁止し、2017年9月に取引所を閉鎖した。大手3社はその後、海外に展開しているが、さらに規制が入る模様である。取引所で仮想通貨ビットコインを取引した場合、手数料はビットコインで入り(当初は手数料がゼロだった)、中国人民元に換金して中国経済にプラスと当局は考えた。しかし、ビットコインから人民元に換金された金額が予想以上に少なかった。そればかりか、逆に資本の海外流出の手段となってしまったため、これは人民元の価値と国内経済を守るために禁止せざるを得なかった。仮想通貨バブルの崩壊のリスクもあった。さらに、マイニングであるが、電気代や土地代が安価な内モンゴル自治区や四川省、雲南省などで行われていた。しかし、コンピューターが行っており、雇用は伸びなかった。ビットコインの場合は1ブロックで12.5ビットコインが手数料として得られるが、こちらも人民元に換金される(国内で使用される)ことは少なかった。マイニングはコンピューター(マイニングマシン)が行うが電力使用量が大きい。最盛期はマイニングで使用する電力が、アルゼンチン1カ国相当にもなった。中国の発電は石炭を使った火力が主で、環境の悪化にもつながった。そのため、当局はマイニング業者の操業停止を求めている。
・日本銀行が発行する通貨の信用(信認)の拠り所については、通貨を発行するときにほとんどの場合、国債を購入して対価として供給する。すなわち日本銀行の保有資産としての国債にその拠り所がある。国債は日本国政府が発行しているので、政府が保有する「徴税権」が最終的な拠り所となっている。そのような観点では、足元の個人資産合計は約1800兆円であり、うち銀行預金が約1000兆円強であり、また国債発行総額は約1000兆円強であり、このバランスが通貨の信用の一つのファクターになる。
・アリペイ(Alipay:支付宝)とは2004年に東アジア最大のウェブショッピングサイト(淘宝網(タオバオワン)」から独立した決済サービスである。足元、約5億人が使っている。オフライン決済にも進出し、実店舗でも頻繁に使われるようになっている。中国のネット通販ではおカネを振り込んでも商品が届かなかったり、不良品で返品したくても連絡がつかなくなるなどのトラブルが続出した。そこでアリババ集団は利用者の「支付宝」アカウントにお金をチャージさせ商品の受渡や代金の支払いが確実に行われるようにした。このサービスと還元率の高いポイントサービスで一気に普及した。アリペイには「芝麻信用」(ゴマクレジット)という仕組みもあり、個人の信用はアリババ系の購入記録から判断され、信用情報として活用される。
・ウィーチャットペイ(WeChat Pay:微信支付)は、SNS・ネットゲーム運営会社のテンセントが2014年に始めた決済サービスで、足元、7億人が使用している。「紅包(ホンバオ)」という送金機能がある。これは中国の伝統的な習慣に由来している。日本のお年玉やおひねり、ご祝儀のようなものである。
・銀聯カードは、基本は銀行の預金カードでモバイル決済の電子マネーではない。日本で使う場合には、デビットカード機能とクレジットカード機能を使う。銀聯とは銀行間ネットワーク(決済システム)という意味で、2002年に中国人民銀行の指導で設立された「中国銀聯」(China Union Pay)が運営している。発行枚数は約45億枚である。銀聯カードとは、いわゆる銀行カードで、複数の銀行に口座を持っている場合には、それは別個のカードとして認識されるためこの枚数になる。来日中国人の増加とともに、銀座をはじめ、日本で普及することになった。それは中国は人民元の持出規制(5000ドル)があり、また紙幣は100元(約1700円)が最高額の紙幣であるという問題があったからである。そのため、銀聯カードのデビットカード機能とクレジットカード機能(審査に通った人のみ)を使用することになった。日本でも店舗を中心に対応可能になっていったが、利便性の店から、中国国内で追い抜いたウィーチャットペイとアリペイが日本を含めた海外でも普及する可能性が高まっている。
・「QRコード(Quick Response)」とは、デンソーが1994年に開発した2次元コードである。(現在はデンソーの子会社デンソーウェーブの登録商標となっている。)ロイヤリティフリーにしてから、アジアを中心とした世界に普及した。中国のQRコード型モバイル決済(ウィーチャットペイとアリペイ)が日本で普及する可能性が高まり、逆輸入のような形になっている。日本では、スマホ決済におけるQRコード規格統一「BankPay(バンクペイ)」が合意、「金融機関キャッシュレス協議会(仮)」で推進され、2019年度の実用化を目指している。
・クレジットカードの世界6大国際ブランドとは「VISA」(約5割強9。「Mastercard」(約3割弱)、「中国銀聯」(CUP)(約1割強)、「アメリカン・エキスプレス」(AMEX)(約7%)、「JCB」(約3%)、「ダイナース」(Diners)(約2%)等である。
・基軸通貨米ドルの決済システムの構成は、中央銀行FRBの決済システム:Fedwireと、民間銀行による外国為替(クロスボーダー)を主とした決済システム:CHIPS、そして小口の決済システムACHが存在している。FedwireとCHIPSを合算して、2017年に1日当たり4兆5000ドル(約500兆円)決済している。
・CLS銀行は、外為決済リスク、特に時差に伴ってリスクが拡大するヘルシュタット・リスクを消滅させる(ゼロにする)ために設立された銀行である。CLS銀行は2002年9月に稼働を開始したニューヨークに本店を置く決済システムである。CLS銀行はニューヨーク連銀が認可(免許)を出し、担当して監督する決済に特化した「特別目的銀行」である。法律上は銀行免許を持った銀行だが、実体的には「決済システム」である。いまや、件数・金額とも世界一の決済システムとなっている。
・中国は人民元を通貨として、決済システムの構成は、外為決済システムを分けているなど日本と近似している。また電子化が進んでいるのは、国土が広いということも背景にある。CNAPS(シナプス)は中国の中央銀行である中国人民銀行(PBOC)の決済システムで2005年から順次稼働した。香港の多通貨資金・証券決済インフラとも接続している。なお2014年5月から、CNAPSをアップグレードした2世代の決済システムCNAPS2が稼働している。
・「国債」は米国、英国は「T+1」移行済であり、2018年5月1日に日本も移行した。「株式」は欧州は2014年10月にT+2移行済で、米国も2017年9月にT+2に移行した。日本もまた2019年7月16日に約定分からT+2に移行する。当初5月を予定していたが、新天皇即位に伴う改元と重なるため、本日程とした。
・「アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)」とは、通貨危機の防止のために、アジアの証券市場、特に債券市場の育成を進める汎アジアのプロジェクトのこと。特にその中でも決済システムの整備が検討課題になっている。アジア通貨危機の再発防止のために、短期的な対策として外貨準備を融通する国家間の資金スワップ協定である「チェンマイ・イニシアティブ(CMI)」が締結され、中長期的な対策として「アジア債券市場」の育成が進められている。アジア通貨危機の根源的な原因は、米ドルと東アジア通貨の「通貨種類のミスマッチ」と、短期調達と長期貸付の「調達・運用機関のミスマッチ」によるダブルミスマッチである。それを解消するために、アジアにおいて現地通貨建てで中長期の運用・調達を可能にする「アジア債券市場」を育成することが不可欠なのである。このABMIは各国の財務省とアジア開発銀行(ADB)が主体となって進められている。
・決済リスクは複合的なリスクであり、発生する比率は低いが、発生すると被害が大きいという性質を持つ。歴史的にはそれぞれの事件が発生した後に、当局をはじめ関係者の尽力によってリスク管理が強化されてきた。具体的な事件は以下である。結論からいえば決済システムによって決済リスクが削減される。
(1)ヘルシュタット銀行事件(1974年6月)
(2)BONY事件(1985年11月)
(3)ニューヨーク大停電(1990年8月)
(4)BCCI事件(1991年7月9
(5)ベアリングス事件(1995年)
(6)リーマンショック(2008年9月)
(7)東日本大震災(2011年3月)
(8)マウントゴックス事件(2014年2月)
(9)米国の大手金融機関に対する制裁(2014年6月~)
(10)SWIFTハッキング事件(2016年2月)
・現在、決済インフラや金融が進んでいる方向は①電子化、②規制強化、③集中化である。①電子化については、ペーパレス化・電子記録債権化・電子マネーの増加・紙幣の廃止などさまざまな決済インフラで進行し、事務改革ともなっている。②規制(管理)強化については、銀行の経営はもちろん、マネーロンダリングや、仮想通貨・ブロックチェーンを巡る事件やSWIFTをはじめとしたサイバー攻撃など犯罪行為などに対して厳しくなっている。③集中化については、ブロックチェーンなど分散化と誤解が多いが、現在の経営環境で特にシステムの効率性、コスト削減およびサイバー攻撃に対応するために三菱UFJ銀行のように集中化し、基幹系システムまでもクラウド化させている。
<今日の独り言>
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